硝子体手術について
眼球内の水晶体のすぐ後ろにある、透明色でコラーゲン成分によるゼリー状の組織が硝子体です。硝子体疾患に対する手術治療全般を硝子体手術と言います。硝子体手術が行われる疾患は、主に網膜前膜・硝子体出血・糖尿病網膜症・黄斑円孔・網膜剥離などが挙げられます。
網膜前膜は、網膜に膜が張ることで視力障害を引き起こします。硝子体出血は糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症・網膜裂孔・網膜細動脈瘤・加齢黄斑変性など様々な疾患が原因となり生じます。硝子体出血を引き起こすと、大幅に視力が低下します。糖尿病網膜症は、糖尿病の合併症のひとつで、血糖値上昇によって網膜の血管が閉塞し、新生血管が生じることにより黄斑に浮腫が出現し視力低下を引き起こします。黄斑円孔は硝子体の牽引に伴い黄斑に穴が開いてしまう状態です。物が歪んで見えたり、視野の中心が見えづらくなったりします。
網膜剥離は網膜裂孔から進行し、網膜色素上皮から網膜が剥がれた状態です。視力低下や視野欠損を引き起こし、放置すると失明するリスクもある重篤な疾患です。
硝子体手術では、白目に小さい孔を3か所開けます。術後の視力回復には6か月~1年ほどかかり
ます。
硝子体手術の流れ
硝子体手術は、局所麻酔で行います。ベッドに仰向けになって、顔にカバーをかけます。その後、目の消毒をしてから点眼麻酔を行い、目の奥に注射の麻酔をします。痛みに敏感な方には、手術中に適宜麻酔を追加して対応しております。
1白目部分に手術機器を挿入
0.5mmほどの小さい穴を3カ所開けます。3つの穴には、それぞれ以下のような意味があります。
1つめの穴:眼球内圧を維持するために灌流液を入れる穴
2つめの穴:眼内を照らす器具を入れる穴
3つめの穴:硝子体を切除するカッターやレーザーを入れる穴
2濁った硝子体を切除・処置
濁った硝子体を切除します。切除した分だけ灌流液が入るため、目の中が硝子体から灌流液に入れ替わります。硝子体切除後は、疾患や病状に応じて必要な処置を行います。
3黄斑円孔・網膜剥離の場合は、灌流液をガスに変える
灌流液をガスに代えて開いた穴を閉じたり、剥離した網膜を戻したりします。ガスを注入した場合、手術後1~2週間はうつむき姿勢が必要になります。また、白内障のある方は、硝子体手術後に白内障がさらに進行してしまうことが多いため、同時に白内障手術を行います。
対応疾患
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、糖尿病の合併症のひとつで、血糖値上昇によって網膜の血管が閉塞することにより新生血管が発生し、新生血管が破綻することにより網膜に浮腫や出血があらわれる状態です。さらに病状が進行すると、硝子体出血や増殖膜による牽引性網膜剥離を引き起こします。このように、網膜症が進行して硝子体出血や牽引性網膜剥離が起きた場合には硝子体手術を行います。
網膜前膜
網膜前膜は、加齢によって網膜に線維性の膜が張ることで視力障害を引き起こします。硝子体の収縮に起因しているため、ご高齢の方に多く見られる疾患です。また、網膜裂孔や網膜剥離の治療後、またその他に生じた眼底疾患に併発して起こることもあります。視力低下、物が歪んで見えるなどの症状があらわれます。
黄斑円孔
黄斑の中心窩に孔が開いてしまう状態を黄斑円孔と言います。主に、加齢に伴う硝子体の収縮が原因とされ、黄斑が引っ張られて孔が開きます。物を見る中心部分のため、視力に大きく影響を及ぼします。孔が完全に形成されると、視力は大幅に低下してしまいます。
硝子体出血
網膜の血管が切れることで、出血が硝子体腔に溜まる状態を硝子体出血と言います。出血量が多く、網膜まで光がしっかりと届かないことで大幅な視力低下を生じます。出血量が少ない場合、飛蚊症としてあらわれます。
黄斑浮腫
黄斑部がむくむことで、視力低下・物が歪んで見える・物がぼやけて見えるなどの症状があらわれます。主に、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎などの疾患が原因となって生じます。
手術後の注意点
- 目に触れない
術後の感染症や出血を防ぐために、目を触る・こする・押さえることをお控えください。 - 点眼は医師の指示通り行う
手術後は、術後の感染症を防ぎ、消炎を図るために、点眼薬を行います。しみることがあるかもしれませんが、医師の指示通りに決まった時間に点眼を行ってください。 - 目に水分が入らないように注意する
手術後1~2週間は、特に術後の感染症発症のリスクが高いため、洗髪や洗顔はお控えください。
硝子体手術の合併症
感染症
眼内に細菌等が入り込み、眼内で細菌が増殖し、炎症を増大させることが稀にあります。重篤な合併症の1つであり、直ちに眼内の洗浄が必要になります。術後、改善した見え方が急激に悪化し、目の痛み・充血・メヤニの悪化等を認める際は、お早めの受診をお願い致します。
出血(駆逐性出血・硝子体出血等)
糖尿病網膜症等の手術後に硝子体出血が起こることがあります。出血の量が多い場合は再手術になります。また、稀ではありますが、手術中に眼内から大量に出血することで、視力を大幅に低下させてしまう駆逐性出血が起こる場合があります。
網膜裂孔・網膜剥離
手術中に網膜裂孔を生じる可能性があります。網膜裂孔から網膜剥離に進行するのを防ぐために、術中に網膜裂孔を生じた場合、直ちにレーザー治療を行います。さらに、術後に異常な増殖膜が生じることで網膜剥離を引き起こす増殖性硝子体網膜症を発症することがあります。
緑内障・眼圧上昇
術後に眼圧が上昇する可能性があります。一時的な場合が多いですが、稀に眼圧が高い状態が長く続くことがあります。この場合、緑内障の発症リスクが高まります。さらに、糖尿病網膜症・網膜静脈閉塞症の場合、虹彩まで新生血管が伸びてくる血管新生緑内障を引き起こすことがあります。
角膜上皮障害
糖尿病の方は、角膜上皮が弱く傷つきやすいため、手術により角膜上皮障害を引き起こすことがあります。
充血・異物感
目に小さい穴を3~4か所開けるため、術後は異物感や充血を認めることが多いです。穴は結膜・テノン嚢で覆われて時間経過と共に閉鎖します。